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自転車泥棒を捕まえて書類送致する際の流れ(任意事件の処理例)

警察の具体的な仕事

逮捕されずにいわゆる書類送検される場合の流れについて,自転車泥棒を例にして説明します。

被疑者(犯人)は成人男性,職務質問で防犯登録番号を照会したところ自転車が盗難品であることが判明し警察署へ任意同行,その後取調べで自供したものとします。

なお被疑者の犯歴などにもよるのですが,この程度の事件だと簡易書式という簡単な書類やさらにかんたんな微罪処分になることも多いです。
しかし今回は説明のためあえて基本書類で処理したとして説明します。

まずすること

任意同行

職質現場で自転車が盗難品だとわかったことで,さらに事情を聞かないといけませんから警察署や交番へ任意同行を求めます。
盗難自転車に乗っているという時点で容疑性は高いので,この場合の任意同行を拒否することはかなり難しいです。
拒否したり逃げようとすると,たくさん警察官が集まってくることになります。

事例では警察署へ任意同行します。

取調べ

警察署の取調室で被疑者の取調べをします。
すんなり自分が盗んだと自供しました。

人定事項(住居,職業,氏名,生年月日,連絡先)を特定するために,被疑者から身分証明書を提出してもらうなどして確認します。

任意事件で処理する場合,身柄請(みがらうけ)といって身元保証人のような人に迎えに来てもらうのが原則なので,家族等の連絡先も聞いてそちらへも連絡します。
家族には知られたくないって言う人がしばしばいますが,悪いことをしているのでそりゃあ無理ってもんです。

また自転車については職務質問時に被疑者が持っていたものなので,被疑者から任意提出させます。書類を1枚書いてもらいます。

被害の確認

被害届の取り寄せ

照会で盗難自転車だということはわかりましたが,被害の状況をはっきりさせるために被害届の写しを手に入れます。
被害届は被害場所を管轄する警察署が保管しているので,そこへ連絡してとりあえずファックスしてもらうことが多いです。

被害者に確認

たまに盗まれた自転車を被害者自身が見つけたにもかかわらず,そのまま放置していることがあります。(こういうときは自転車と共に警察へ行って盗難手配の解除をしなければいけません。)
そういう自転車をたまたま知人に貸していて・・・ということも実際にあるので,被害者に直接連絡を取って盗まれたままかどうかや返還の日取り等について確認します。

さらに取調べ

矛盾がないかの確認

被害届に書かれた被害時間や場所が被疑者の供述する盗んだ時間や場所と合うかどうかを確認します。
合えばいいのですが合わないこともよくあります。

例えば今回の被疑者とは別の人が最初にその自転車を盗んでどこかに放置して(①),その後本件の被疑者が盗んだ場合(②)など。
被害届に書かれた被害時間・場所は①のもので,本件の被疑者が盗んだ②の時間帯や場所とは合うわけがありません。
こういうこともあるのでよくよく確認します。
ちなみに合わないときは窃盗ではなく占有離脱物横領として処理します。

この例の場合,被害届の状況と被疑者の供述に矛盾がないものとします。

事実を組む

この辺までは最低限やっておきたいところです。
逆にここまでやっておけば,とりあえずは事実が組めます。

事実というのは捜査段階によって被疑事実とか犯罪事実とか若干呼び名が変わるのですが,要は事件の核となるもので,これが組めないようなものは事件として立件できません。
この事例の場合だと,

被疑者は,令和○年○月○日午後○時○分ころ,○○市○○町1丁目2番3号○○駅駐輪場において,○○所有の自転車1台(時価○円相当)を窃取したものである。

って感じになります。
この事実に書いてある事柄をすべて裏付けていくのが捜査の基本です。
日時はなぜその時刻だと言えるのか,場所はそこで間違いないのか,といった風に。

この事例のように単純な場合はよいですが,複雑な事件になると事実だけで別紙がついたりもしますのでそれをいちいち裏付けていこうと思うと大変です。

いったん解放

この例では,当日はここで帰ってもらうことにします。
当日帰ってもらう時は,とりあえず「私が盗みました。間違いありません。今度の取調べにはかならず出頭します。」という内容の2,3枚の簡単な供述調書を取ることが多いです。

そして先ほど説明した家族等に迎えに来てもらって身柄請書という書類を書いてもらいます。
また次の取調べの日程調整をしておきます。

時間があるときは当日中にこの先の捜査も一気に済ませることもあります。

被疑者が帰ってから

どんな事件でも被疑者がどこの誰であるかを特定するのは必須です。
そのために必ず身上照会,前科照会,犯歴照会というのを行います。

身上照会というのは市役所に対して戸籍を確認するもの,前科照会は検察庁に対して前科を照会するもの,犯歴照会は警察内の照会センターに犯歴を照会するもの。

身上,前科は郵送になることも多いので早めに作っておきます。

取調べ2回目

事例にように簡単な事件なら,2回目に呼んだ時に警察の捜査はすべて終わらせます。

取調べ

自転車を盗んだ状況について,先ほどの事実に基づいた供述調書を作ります。
事件のキモになる書類で,事実調書って呼ばれます。

また被疑者から供述調書を取る際には,事実調書とは別に身上(しんじょう)についての調書も必ず取ります。
身上調書には被疑者の経歴,職歴,家族,収入,友人関係など,私はこういう人間ですっていうことが書かれています。

余談ですが職歴や犯歴が数十件単位である人(たまにいます)は,この身上調書を取るだけでも一苦労です。

引当て(ひきあて)

引き当たりともいうのですが,被疑者に盗んだ場所を実際に案内させます。
実際に案内させることで,被疑者の供述を担保して犯行場所を裏付けるためです。
現場で被疑者と一緒に写真を撮ります。

また盗難自転車についても被疑者を一緒に写真を撮ります。
こっちの写真は初日に自供を得た後にさっさと撮ることも多いです。

被疑者写真,指紋

鑑識係へ行って犯歴データベース用の指紋や写真を撮ります。

被害品の返還

被害自転車を被害者に返します。
還付(かんぷ)っていいます。
返すときに何枚か簡単な書類を書いてもらうと同時に,被害自転車と一緒に写真を撮っておきます。

被害者が遠隔地に住んでいたり,スケジュールが合わなかったりするなど意外と苦労することもあります。

書類を作ってまとめる

今までの捜査内容を書類にまとめます。
供述調書などはすでに書類になっていますから,引当てをした状況とか撮った写真とかを書類にしないといけません。
これらをまとめたものを一件書類といい,この事例では

送致書(頭書きみたいなもの)
捜査状況報告書(職務質問から立件に至った経緯をまとめたもの)
捜査状況報告書(引当て捜査をした状況)
被害届
写真撮影報告書(写真を書類にしたもの)
任意提出書(被疑者から自転車を提出させた際の書類)
領置調書(被疑者が提出した自転車を警察官が受け取ったという書類)
還付請書(警察官が返還した自転車を被害者が受け取ったという書類)
供述調書(身上調書)
供述調書(最初の日にとった簡単な事実調書)
供述調書(2回目にとった詳しい事実調書)
身上,前科,犯歴照会書とその回答書

辺りになるかと。
細かい書類がもうちょっとありますし,部内的に必要な書類はまだまだたくさんあるのですが省略します。

引継ぎ,送致

一件書類ができあがったら専務(この場合だと刑事課)に引き継ぎます。
刑事課で書類がチェックされてOKなら検察庁へ書類が送られます。
不十分な捜査をしたり要領を得ない書類を作っていると,一件書類の束に付せんがホウキのようにたくさん付いて返ってきます。
鬱になるひとときです。

まとめ

全速力でやれば1週間以内で終わります。
が,実際は被害品の返還や取調べの日程調整,書類の訂正などで日数がどんどん増えていき,1か月くらいになるのが普通でしょう。

このようにごく単純な事件でも手間や書類がかなりかかります。
共犯がいたりして事件が複雑になってくると数か月単位になることもザラです。

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