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捜査関係事項照会で思ったこと~照会ができないと捜査なんてできない

最近Tカードを運営するCCCが令状じゃなくて照会書で回答してたとニュースになってます。

Tカードの個人情報提供めぐって国会紛糾。警察庁の担当者「一般論」を繰りかえす
「カード会社に令状なしで情報提供を求めるの控えて」山尾志桜里議員の質問に明確には答えず

なんでニュースになるのかが分かりません。
なんで令状がいるんでしょうか?
令状が必要ないのに「令状が必要」とごねている会社に対して説得することに何の問題があるのでしょうか。
そのために個人情報保護法があって,例外規定も定められているんじゃないんですか。

照会の実際

全部令状取るの?

個人情報の回答を求めるのに令状で全部対応してたら捜査とかできないです。
仮にそんなことしても令状が乱発されて令状の価値がなくなるだと思いますよ。
それに令状が取れないような事件は,捜査しなくていいってことですかね?

例えば現金100万円が盗まれた窃盗事件があったとします。
被害者は知り合いの甲さんが怪しいと言いますが, あいにく現場からは良い鑑識資料が出ず(鑑識資料って出ないことの方も多いです。念のため)めぼしい証拠はありません。
こういう事件はよくありますが,この段階で仮に甲さんを取り調べても,よっぽどのお人好しじゃないと自供なんかするわけがありません。
ですから周りから固めていかないといけないのですが,照会はその手法の一つです。
例えば照会で甲さんの口座を調べたところ,被害後に100万円の入金があったとすると,容疑性は一つ高まります。
そこから今度は入金したATMの場所や防カメ画像の照会をして・・・というのを延々と繰り返していって被疑者に近づいていくのはよくある手法です。

でもこの事例で照会に令状が必要というのなら,最初の段階では甲さんの容疑性は「なんだか怪しそう」ということしかないので令状なんか取れません。
つまり怪しい人物はいるけど捜査できませんっていう話になってしまいます。
でもこういうげなげな話は当たってることもけっこうありますから,とりあえず捜査は尽くしてみないといけないですよね。
それとも何もせずに被害届だけ受理して闇に葬りますか?

LINEは素晴らしい?

別の記事ではLINEは原則令状対応だし透明性がすごいみたいなことが書かれていました。
今はどうなっているのか知りませんが,私が捜査をしていたころは,LINEにはいい印象がありませんでした。
まず令状が必要なのが当然で,しかも令状があっても対応が非常に遅く,やっと情報を取得したころには意味がなくなっていることもけっこうありました。

意味がなくなるというのは,証拠にも鮮度が必要ということです。
捜査って一つの方向からだけではなくいろんな方向から進めるので,回答をもらったときには他方面からの捜査ですでに立証済みになっていて意味がなくなってるのが一つ。
これは立証上は問題がないのでいいのですが,困るのは次の例。
防カメ映像とかサーバーのログとか保存期間に上限があるものは多くあります。
例えば回答からさらに捜査してある防カメ画像にたどり着いたとします。
しかし回答をもらうまでに時間がかかりすぎたため,たどり着いた時すでに遅しで上書きされていたり。
その画像が決定打になるような事件だったらもうその事件は迷宮入りですよね。

民間企業ですし全国から問い合わせが無茶苦茶多いので仕方ないとは思いますが,通信の秘密に当たらない部分は照会書で回答して欲しい,というのが当時の思いでした。
今も当時と変わってないとしたら,犯罪者には優しく,被害者には厳しい会社だと思います。

その点柔軟に対応してくれる会社はホント助かってました。
CCCは今回の件について「社会貢献のため」って言ってますが,そのとおりで非難されることじゃないと思います。
むしろLINEみたいに令状にこだわるなどして捜査の足を引っ張る方が,よっぽどか社会に貢献しない被疑者だけに優しい会社で非難されるべきじゃないでしょうか。

まとめ

こういう照会って弁護士会とかもやってるはずですし,税務調査なんかでも使われますが,一律に禁止するんですかね?
そうしたいんならすればいいと思いますが,そうやって困るのは被害者である一般の人だと思いますよ。
別に警察は検挙率が下がっても給料が下がるわけではないので。

取調べの比重を下げる傾向はずっと続いていますから,客観的証拠で固める方向にシフトするのは仕方がないんだろうなと思いますが,その客観的証拠を収集する道具まで奪われたら検挙なんかできないですよね。
自分で自分の首を絞めるようなことばかりを問題にして,一体何がしたいんだろうと暗い気持ちになるのでした。

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